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最近、歌舞伎座で、立役の踊りにいろいろチャレンジしている菊之助が、歌舞伎巡業の東コースで、「高杯」を踊るという。これは、亡くなった18世勘三郎が得意としていた演目。踊りのテクニックだけでなく、愛嬌のいる役です。
勘三郎が亡くなったあと、息子の勘九郎が演じるのを観ましたが、踊り巧者と思っていた勘九郎でも、下駄でのタップのようなステップがうまく踏めておらず、当然、愛嬌という部分は、勘三郎に手の届くはずもなく・・・。勘三郎が、役としての魅力だけでなく、どれだけ高いテクニックを持ち、自分のものにしていたのかに思い、急逝の喪失感がまた蘇り、悲しくなりました。
歌舞伎巡業東コース 練馬文化センター、パンフレットまで新鮮
巡業の初日は、6月30日の江戸川区総合文化センター。練馬文化センターは、ほぼ1ケ月後の7月29日の公演です。舞台を積み重ねてきて、いい状態になっているのが期待できます。
練馬文化センターは駅からも近く、劇場前には緑もあって、それが、ホールの中から見えて、気持ちいい。それに、家からも近かった!電車に乗るのが10分以内で、東銀座の歌舞伎座に行くより楽ちんです。
ホールの入り口に入ると。パンフレットが売っています。これが、歌舞伎座で売っているパンフレットより大きいA3サイズ程。中は字も写真も大きく、シンプルで読みやすい。出演者が少ない分、いつもは写真にのらない役者にも2ページが割かれ、この巡業への思いも載っている。パンフレットにエネルギーが溢れていて、めったに買わないパンフレットを、開演前から買ってしまいました。販売スタッフの「残りこれだけ!!」という、元気な売り込みもありましたが。こういうのも巡業の楽しさです。
歌舞伎巡業東コース 一幕目「近江のお兼」 中村梅枝
梅枝は、女方らしいやわらかさがあり、注目している若手の1人です。首肩の線は華奢でいいのですが、ちょっと頬から下が長くて、かわいい役や、小顔の女形と並ぶと不利かなと感じる時も・・。でも、今年の5月のシアターコクーンで上演された「切られ与三」のお富では、縞の着物を着た大人っぽい役だったので、ちょっと気になる点をしっかりカバーし、色気あり、情ありで、とてもよかったです。
「近江のお兼」は力自慢の娘であることと、長い晒を振ることがおもしろい踊りです。でも、私が初めて観たときは、肩幅ガッチリ系の女方だったので、長い晒を振るのが「男だから、力がある」ように見え、途中、しなを作るのがオカマっぽくて、何がいいのかわかりませんでした。だから、あまり注目しておらず、その後も何度か観ているはずですが、特に印象に残っていません。
今回、梅枝は、初役で臨みます。「立役の方もなさる舞踏なので、女方の私のお兼がただ綺麗だけではおもしろくありません。工夫したいと思います。」
梅枝は、柔らかな動きで、力自慢の部分で男をつきとばしても、かわいさを失いません。何よりよかったのが、晒が大きく舞ってきれいだったことです。これは、梅枝の扱い方が良いのもあるでしょうが、歌舞伎座のように舞台が大きすぎないのと、提灯があったりしないシンプルな客席であることで、この白い布が劇場の中心となって、天女の羽衣のようにフワリと浮いて見えたこと、その動きとともに、心がフワフワとして、気持ちよくなりました。心が洗われたようで、これだけでも、巡業って楽しいなと思いました。
歌舞伎巡業東コース 二幕目「御所五郎蔵」 尾上菊之助
これは、かっこいい男(男立て)と、傾城が出てくる華やかな演目です。でも、歌舞伎的世界に入り込めないと、「ナンジャー、この男は!!」と腹の立つ、無茶苦茶な話でもあります。これは、「男立て」というのが、わからない現代だからしかたない。
歌舞伎の二枚目っぽい扮装の菊之助の男伊達やら、憎々しい敵役に加え、美しい傾城が二人もでてくる。それに七五調のセリフ。華やかでいい!!歌舞伎ファンとして、初めて見るような方も多い巡業に、こういう演目を選んでいることに、ホッとします。
ただ、菊之助の五郎蔵は、ちょっとおっとりしていて、アクはないかなと。頬も、この写真よりポッチャリしていて、女方にはいいのですが、ちょっとこの役には柔らかい。どんどんシャープになっていく海老蔵とは逆ですね。声がスッキリ、さっぱりではないので、啖呵がどうも決まらない。もと、おぼっちゃまの武士だったのね、というキャラが残った五郎蔵でした。
恋人役の皐月の梅枝は、傾城の大きい鬘、衣装がとても良く似合い、きれいでした。こういうのは、長い顔のほうがおさまりがいいから。ずっと、思いを秘めている感じが出て、皐月に思いっきり同情しました。ストーリーを知っていながらも、この思いを感じ取れない五郎蔵はバカじゃないかと、つい、思ってしまう。
米吉は、もともとが、かわいらしいので、女方としてきれいにおさまります。傾城逢州では、「皐月の妹分ではありますが、五郎蔵の旧主の寵愛を受ける身ということは五郎蔵や皐月より立場が上(中略)若いながらもそうした立場を意識して」と。
かわいいので、妹分だけなら、衣装を着てそこにいるだけでもいいというキャラですが、今回は、格上感を出さないといけない。
梅枝の皐月が堪え忍んでる感満載なので、米吉の明るいかわいさが、殿に愛されている余裕となり、思いやりある格上感が出ていました。
敵役の彦三郎は、いつものことながら、声がよく通り、セリフがすっきりしていい。声質からいうと、五郎蔵をやってもいいくらい。だから、菊之介の五郎蔵のセリフ回しが、余計、まったり聞こえたというか。皐月の愛想づかしにカッとなっちゃう幼い五郎蔵だから、このバランスもありかなと。悪というより、大人の男でした。
歌舞伎巡業東コース 三幕目「高杯」 菊之助の太郎冠者がキュート
どんなものになるのか、一番ドキドキの幕です。殿の團蔵はキリッとしてなかなかのかっこよさです。そこに菊之助の太郎冠者が登場するのですが、「なんだこりゃ?」という化粧です。もともと綺麗な顔だから、愛嬌の出し方が難しいんだろけれども、研究の余地ありと感じます。眉毛を垂らせばいいってもんじゃない。ま、これは、初役だから仕方ないとして。
殿様から、高杯を買ってこいと言われ、萬太郎の高足、つまり下駄売りにだまされるわけです。萬太郎を今まで意識したことはなかったのですが、セリフが明快だし、演技もいい!発見です。萬太郎の高足売りが明快なので、菊之介の太郎冠者の天然な感じがにじみ出てきます。
菊之介の太郎冠者は、はじめは、「勘三郎はここで笑いを取っていたな」ということが、ちょっとしたしぐさによってフッと思いだされ、思わず笑っちゃう、あのおかしさは無理なんだなと、寂しさがよみがえったりしましたが、段々と気にならなくなりました。
菊之助のおっとりとした人のよさがにじみ出てきて、なんだか、小動物的にかわいいのです。おとぼけぶりが、勘三郎とは違うキュートさ。菊之助kは「狂言のもつふんわりとした雰囲気も大事」と言っていますが、まさにそのとおり。そして、キュートなだけでなく、高下駄でのタップもしっかり踏めていました。勘三郎の思い出からどんどん解放され、新たな「高杯」に出会うことができました。菊之助に、これからも、演じてほしい演目になりました。
歌舞伎巡業東コース まとめ
とにかく、楽しい公園でした。演目のバランスもいいし、若手の活躍が楽しい。脇の役者も光っていました。同じ日に、歌舞伎座夜の部に急にいくことになり、最後の「高杯」をやめて、歌舞伎座に向かおうかと悩んでいましたが、劇場の空気が楽しいので、最後まで観ることにしました。そして、最後まで観て、本当によかった!いつもより、大きい役をやることで、役者が光るのを感じることができました。歌舞伎座にも15分遅れぐらいでつきましたし。帰りに、西コースの巡業のチラシがあったので、関東周辺で行こうと思っています。新しい発見がたくさんある、本当によい公演でした。