松竹座「七月大歌舞伎」夜の部「女殺油地獄」感想 仁左衛門との違い

「女殺油地獄」は、仁左衛門が、20才の孝夫時代に演じ、その後当たり役になっていることは、歌舞伎ファンならご存ですね。そして、2009年に、さよなら歌舞伎座公演で「一世一代」を演じて、与兵衛を卒業したことも。

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「女殺油地獄」 仁左衛門に刷り込まれている

私が「女殺油地獄」を初めて見たのは、TVの録画。孝夫(仁左衛門)が40代前後でしょうか?菊五郎のお吉さんで、何とも色っぽく美しかった。話には聞いていたけれども、こんなにすごいものだったのかと。何度も繰り返して見ました。

好きな場面は色々ありますが、一番印象的なのは、夜遅く店にやってきた与兵衛が、お吉に「お金を貸して」と頼むあたりから。

お吉は、夫がいない時に勝手なことはできない(当然です)。こないだちょっとお世話しただけなのに「不義したのではないか」と疑われたことを思い出し、「言い訳に行く日かかったことか」とうっとおしい気分になり、断る。それを、「疑われたのならモッケ」「不義になって貸してくだされ」と、お吉にしなだれかかるようにし、色っぽい流し目で言う仁左衛門の与兵衛。

このあたりは、ビデオでも、生の舞台でも、胸がドキドキです。そして、「貸してあげればいいのにー!」「何で貸さないのーー!」と、間違った感想を持ってしまい・・。

歌舞伎座は、ほぼ毎月観劇していますが、この演目に限っては、仁左衛門でしか観たことがありません。それも繰り返し。

一度、松竹座で海老蔵でやることになり、チケットも取っていましたが、途中から海老蔵が怪我で休演となって、仁左衛門が代役に。その時は、お得気分でしたが、でも、あの頃の海老蔵だったら、どんなだったのか、観ておきたかった気もします。かなり、恐かったのでは?

松竹座七月歌舞伎感想 幸四郎の与兵衛にビックリ!

仁左衛門は、この役は、「生身の人間が出るから」ということで、早くに卒業したわけですが、幸四郎の与兵衛が登場してきた時に、その事がよくわかりました。

花道から仲間と登場し、本舞台へ。幸四郎の第一印象は「軽っ!」。現代的なスタイルがそう感じさせたのでしょうか?ねっとり感がないというか。3人の悪仲間と1人に対して理不尽なケンカをふっかけに来ているわけですが、その中でも、一番弱そう。仁左衛門は、仲間を引き連れて、しきっている若ダンナのようではありましたが・・・。

これだけでも、かなりの衝撃でしたが、馴染み芸者の小菊が高麗蔵で、キレイでいいんだけども、幸四郎に対しては、ムンムンの年増のお色気。だから、幸四郎が余計、軽いお兄ちゃんに見えてしまい・・。

いいとか、悪いとかでなく、これだけのことで、こんなにも印象が違うものなのか、ということに心底驚きました。幸四郎は、染五郎時代にも何回か演じているので、これは、しっかりとした役作りの上のことなんでしょう。1つの役を1人の役者でしか観たことがない、それも繰り返し、というのは、この役ぐらいだし、この驚きは当然のことかもしれません。

松竹座七月歌舞伎感想 猿之助のお吉、歌六の徳兵衛

幸四郎の与兵衛より先に、猿之助のお吉が登場してきています。「ワンピース」での大怪我があって、その後、舞台でしっかりした役は観ていません。だから、左手に、赤んぼの人形を抱いて出てきた時は、胸がキュンとしました。「左手でちゃんと抱いている」と。

ちょっとふっくらしていますが、女房としての色気もあり、きれいな商家のおかみさんとしても、母としても、しっかり地に足つけていて、そりゃ、与兵衛なんかかなわないわ、という感じでした。だから、かえって殺されてしまう訳なんですがね。

与兵衛の義理の父親の歌六は、最近何をやっても深みがあり、とても好きな役者です。今回の徳兵衛もとてもよかったです。

与兵衛が、叔父のことで嘘をつき、徳兵衛からお金を引き出そうとするところ。嘘をシャーシャーとつく義理の倅に、怒りと情けなさ一杯の中で、皮肉も込めながら、突っぱねる。幸四郎の与兵衛は、軽い分、浅はかさが良く出ていて、それもありかなと。

与兵衛が、ブチ切れて家庭内暴力をふるい、実の母に出ていけと追い出される。家族の前ではつっぱていた与兵衛が、家を出て、花道で急に気弱になっている。それを徳兵衛が見ているのに気づき、肩をいからせて去る。それを見送りながら、与兵衛の後ろ姿が先代とそっくりで、「先代を追い出す心地して・・」と、苦しい思いを吐露するところ。なんともつらい。

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その後、徳兵衛はお吉の店に行き、与兵衛が来たら、これを渡してくれとお金を託す。そのあと竹三郎の母おさわも、店のお金を持ちだして、与兵衛に渡そうとして訪ねて来る。結局この甘やかしが、与兵衛を放蕩息子にしてしまっているわけですが、どうしても、ほっとけない子というのが、いるんですよね。自分がこの年齢になるとわかる。この二人の情が濃く出ていて、とてもよかったです。

松竹座七月歌舞伎感想 壱太郎のおかち、鴈次郎の七左衛門

壱太郎の妹おかちは、かわいい妹タイプですから、ぴったりです。与兵衛の暴力に泣き、兄が追い出されても泣き、健気さ全開。

お吉の旦那の七左衛門の鴈次郎もよかった。お吉と与兵衛のの仲を疑って、プリプリするところなんて、今まで観たことない感じで「オッ!」と思いました。さすが、上方役者と。

店でのお吉とのやりとにも、上方の商売家の旦那さんって、こういういう感じなんじゃないかと。そう思うと、殺しの後に手嶋屋で与兵衛が捕まるとこまで観たかったなと。上方役者のガンジロはんと、幸四郎がどうからんで、上方の芝居として演じるのか。

松竹座七月歌舞伎感想 まとめ

お金を借りられないことがわかってからの、油の中での殺しのシーンが、この演目の最大の見せ場でもあります。与兵衛は、お吉を殺してでもお金を奪おうと思っていながら、お吉に「右手を出して!」と強気に言われると、おたおたする。お吉>>>与兵衛の関係です。太棹三味線の音が、薄暗い中に、不穏さと、緊迫感を生み出します。義太夫三味線の力です。

今回は、「仁左衛門ではない」与兵衛を観て、いろいろ考えること、気づくことがありました。幸四郎は、染五郎時代から関西が大好きだったと、口上で鴈次郎が言っていました。そういうこともあって、この上方芝居にも挑戦しているのでしょう。幸四郎の与兵衛には、驚くことがたくさんありましたが、新しい見方もあり、他の人の与兵衛も観たくなりました。

孝夫が人気演目にし、今は仁左衛門として、後輩を暖かく見守っている。私も、一観客として、役者が変わることで、どのように作品が変わるのか、見守っていこうと思います。

七月の大阪松竹座は、毎年「関西・歌舞伎を愛する会」ということで、上方歌舞伎の名家、松嶋屋が出演することに加え、最近は、同じ上方歌舞伎の坂田藤十郎の孫、中村壱太郎が良い役で出演するので、楽しみがプラスに。さらに、松本家の襲名披露もあります。

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